■作品内容
ひととあやかしが共に暮らすことができる、最後の聖域。
四国・高知の山奥にある隠れ里。茂伸(ものべの)――
「恐れ」が変質していく中、誰からも恐れられなくなり忘れ去らて、消えようとしていくあやかしたちが、逃れるように集ってくる土地。
その移住の影には土地神である「ご開祖ちゃん」があやかしたちを招き入れ、定住を支援しているという事実があります。
その招きに応じるか応じまいか悩みに悩んで動けなかった人吉・球磨のあやかし、雪御嬢のゆき。
ゆきが弱り果て、動けなくなってしまう前になんとか――と、半ば無理やりゆきを引っ張り、ものべのへの移住の後押しをしたあやかしが、いんがめです。
いんがめとは、犬神憑き。
もともとは人間だった少女に、犬神という憑き物が押し付けられて――けれども長い長い時間の中で奇跡的に馴染み、誰にも望まれず誰にも意図されぬままに誕生してしまう、そんな不遇なあやかしです。
ゆきにとってはかけがえのないお友達でも、人から見ればあやかしの一員、あやかしから見れば人の延長であるいんがめには、なかなかにこころをゆるせる仲間がおりません。
いんがめが望んだとおり、ゆきはものべの移住によって窮地を脱し、新生活の基盤を気づくことに成功しますが――招かれざる客でしかないいんがめは、なかなか村に馴染めません。
ゆきのアイスクリーム屋さんでバイトをしつつ、なんとか生活環境の改善をと頑張り続ける――そんなゆきの前に現れる存在が、あなたです。
団体客をこなすため、問答無用で臨時バイトにくみいれられたあなたは、窮地をともにしたことにより、ほゆるの信頼を勝ち得ます。
明るく元気で面倒見がよく――その反面、自分のことをおろそかにしてしまいがちなあぶなっかしいほゆるの、どうぞ背中を、そうっとその手で支えてあげていただけますと幸いです。
「違う違う! いんがめば、犬神(いぬがみ)――いんがめゆー犬の憑きもんに憑かれてなじんだ成れの果てのあやかしやけん!
ふつうの人間よりずーーーーーっと鼻が効くだけいう話ばい!
やけん、おにーさんが体臭キツいとかそんなんじゃなかとよー!
……どころかいんがめ、おにーさんの匂い好きやけん。
もし体臭がきつかったとしても、むしろご褒美って、思うけん」
「……あん、ね? おにいさん――
お兄さんがうちに尋ねてくれたけん――
そいでね? うち、ね? 思い出したと。
いんがめ……うちは――
むかしは、普通の人間で――庄屋の娘で。
……名前、あったと――ほゆる、って――
人間だったときのお名前」
……犬神、管狐、外道――さまざなな名前で呼ばれる、呪詛物『憑き物』。それをあわれにもけしかけられて、けれども奇跡的に狂することも死すこともなく、長い長い時間の果に“馴染んで”うまれたあやかし――それが、“いんがめ”です。
ほゆるという人間だったときの名前も忘れて、球磨奥深く、市房山に隠れるように暮らしていたいんがめは、いつしか、無二の友を得ます。
雪と氷を操るあやかし――雪御嬢の、ゆきです。
おっとりとして包容力にすぐれるものの行動力には欠けるゆき。
活発で世話焼きだけれど後先をあまりかんがえないいんがめ。
お互いを補いあうようなふたりはすぐに大の親友になり、長い長い時間を、ともにしあわせにすごします。
けれど、時間は残酷です。
かつてはあれほど畏れられ敬われていた“雪御嬢”が、架空の存在と軽んじられるようになると、ゆきはめきめきと弱っていきました。
そんな最中に訪れた、ものべのへの招き。
いくしかないとわかっていても動けぬゆきを、いんがめは半ば無理やり無理矢理ひっぱって、ものべのへ強制的に移住させます。
結果は、ゆきには大成功。
ゆきは完全に存亡の窮地を脱します。
けれど反対にいんがめは、慣れぬ土地、招かれぬ土地での苦労にさらされることとなってしまいます。
ゆきの精一杯のサポートを受け、食うに困るということはないのですが、それでもまったく、将来への展望は見えません。
「どぎゃんかせんといけん」
そう思っていたいんがめの前に、ひょんなきっかけかあらあらわれたあなた。
あなたと言葉を交わし触れ合う時間は、いんがめが自ら閉ざしていた、記憶の蓋を開きます。
明るさと快活さの影にかくれたいんがめの傷を、どうぞ、そっとぬぐって寄り添ってあげてください。
その時間はきっと、あなたにも、かけがえのない癒やしを与えてくれることでしょうから。
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